「高く買う」ために、売り方から変えてきた。車買取ソコカラ戦略責任者インタビュー

年間10万台、累計99万台――。
ソコカラが取り扱ってきた車の多くは、一般的な中古車市場では価値が低いとされる損害車や低価格帯の中古車です。しかし、同社はそれらを「宝の山」に変える独自のビジネスモデルを構築。世界110ヵ国以上と直接取引を行う自社オークションを武器に、廃車買取業界のトップランナーとして成長を遂げてきました。さらに近年は、本田圭佑氏を起用したテレビCMなどのブランディング施策も奏功し、堅実な実績とともに知名度を獲得。高品質な中古車市場への進出も進め、総合買取業者としての地位を築きつつあります。
このダイナミックな事業展開の裏には、どのような戦略と思考があるのか。本企画では、ソコカラの成長を支える戦略責任者・森田成亮氏に、事業の仕組みと市場の動きにどう向き合っているのかを聞きました。
お話を伺った方
世界110ヵ国に直接販路を持つ、ソコカラ自社オークションの強み
「どんな車でも原則1万円以上での買取を保証する」ソコカラがこのような買取スキームを成立させる背景には、事業構造そのものにおける明確な優位性があります。鍵を握るのは、自社で構築・運営するオークション事業の存在だと、森田氏は語ります。
森田:ソコカラが車を「高価買取」できるのにはさまざまな理由がありますが、なかでも大きな役割を果たしているのが自社オークションです。もともと弊社では損害車(事故車、故障車など)をメインとする「ソコカラオークション」と、低価格帯中古車をメインとする「ソコカラリユースオークション」というBtoBオークションを運営していました。この2つは2024年に中古車、事故車、パーツを一つのサイトで一括して閲覧・購入できる新しいグローバルECサイト「SOCOCARA AUTO MARKET」に統合・リニューアルされました。
ユーザー様から買い取った車は、基本的にこの「SOCOCARA AUTO MARKET」内のオークションで売却しています。外部のオークションを利用しないので、出品料や成約料、会場に運ぶ陸送費などのコストがかかりません。このことがまず一つ、弊社の大きな強みですね。
また、このオークションは世界110カ国以上、3万社以上の企業様に直接入札していただくので、日本国内では全くニーズがない、買い手がつかない車であっても売ることができます。海外の企業様であれば、かなり古い年式の車はもちろん、故障車や損傷が激しい事故車でも使用できるパーツを買い取っていただくケースが多くあるからです。こうしたルートでダイレクトに販売できるというところが、このオークションの特徴なのです。
さらに並行して、弊社は全国300社弱の解体業者様とも業務提携をしており、鉄やアルミ、銅などの金属資源として再利用される車も売却することができます。車の価値というのは一般の方が思っていらっしゃる以上に高いんです。「どんな車でも1万円以上」で買い取れるのはそうした理由からです。
併せて、弊社は全国30の物流拠点を持ち、各拠点にトラックを配置していますので、車を売却されるユーザー様のところから弊社のヤードへ陸送するコストなども安く抑えられます。こうした仕組みにより、車を売りたいとお考えのユーザー様にベネフィットを提供する、弊社がなるべく高い値段で車を買い取るということが実現できています。

変化するユーザー行動に応える、信頼獲得のブランディング戦略
社会環境の変化や業界全体への信頼感の揺らぎにより、ユーザーの売却行動は今、大きな転換点を迎えています。こうした状況下で、いかに信頼を獲得していくか――その答えを、森田氏はブランディング戦略の中に見出していました。
森田:まずコロナ禍を経て、「下取り」ではなく「買取」を選ぶという方が増えています。理由は、コロナ禍による世界的な半導体不足で、新車の減産や工場の操業停止などが起き、新車を注文しても納期が大幅に遅れるようになったからです。注文してもいつ納車できるかわからないという状態だと、ディーラーの担当の方も下取り価格を決めづらい。一方、ユーザー様も、待っている間にもっと高く売れる方法があるのではないかと買取サービスに注目するようになったという経緯があります。
ただ一方、残念なことにここ数年、中古車業界を中心に買取業者による不祥事や消費者とのトラブルが相次いで報告されてしまいました。悪質な業者の存在が広まれば当然、ユーザー様の動向も買取はやめておこうという考えになります。その結果、現在では下取りと買取の割合は、ほぼ50対50になっているのではないでしょうか。
そのなかで、車の売却価格を少しでも上げたいとお考えの方の場合は、買取を検討するという行動を取られます。その際は、同じ買取業者でもテレビCMをやっているとか、JPUC(日本自動車購入協会)に加盟している会社であるとかいう部分をしっかりと見て、安心できる業者を選ぶ傾向が強くなっていると思います。
従って我々としても、これらを前提としてユーザー様の信頼を得たいというのが基本的な考えです。弊社ではテレビCMに本田圭佑さんを起用していますが、当初、CM放映期間中とそれ以外の期間で買取の依頼件数に約3倍の差が出ました。そこで現在は、売却のタイミングが人によって異なる車という商材の特性を考慮し、CMを常時継続的に流すという戦略を取っています。CMの影響もあり、以前より良質な中古車の買取依頼も増えたため、現在は損害車や低価格車だけでなく、一般的な中古車の買取も積極的に推し進めているところです。
もう一つ、ソコカラの認知度を上げたい、ソコカラのことを知っていただきたいということでYouTubeチャンネルも開設しています。チャンネル登録者数が1万人を超えたところで、視聴者からの反響も増えているので、一定の効果があったと感じています。
それから電話でオペレーターが対応する際、ユーザー様に安心感を持っていただくということも非常に重要と考えています。査定金額と契約内容、キャンセルポリシーなどについて丁寧に説明することは特に徹底していますね。契約内容の説明はその専任者が、書類のやりとりに関しては書類管理課という専門部署が対応するなど、信頼して任せていただける体制を整えています。
無店舗型で成約率80%を実現する、電話査定モデルの全体像
実店舗を持たず、電話と出張による“無店舗型”の査定フローを確立しているソコカラ。中でも特徴的なのは、8割を占める電話査定の成約率は30%を超える。また、その成約のうち80%が即決で決まる(1本の電話で決まる)という点です。
なぜ、電話だけでここまで高い成約率を出せるのか。その裏側には、柔軟な提案と仕組みに支えられたオペレーションの工夫がありました。
森田:ソコカラでは現在、電話査定が8割、出張査定が2割という割合で査定・買取を行っています。そしてこれは弊社のユニークな点だと思うのですが、電話査定と出張査定のうち、どちらか「金額が高くなる方」を提案するというスタイルを取っています。
例えば事故歴の有無が価格にあまり影響しない低価格帯の車や、海外で需要のある車の買取は、電話でのやりとりのみで査定して商談を完結させることがほとんどです。これによりコストを抑え、高価買取につなげています。一方、70~80万円以上の高価格帯の車や国内で再販される車については、正確な状態把握のため出張査定を提案することが多くなります。この決定は、ユーザー様からの問い合わせ時に車の情報を聞いた上で、より高額な買取が期待できる方を選択しています。なぜかというと、高価買取が実現すればユーザー様の満足度が上がり信頼度が増しますし、買取を希望される方のほぼ100%が下取りを含む「相見積もり」をされますので、そこで弊社を選んでいただきたいからです。
こうしたサービスモデルにおいて最も重要なのは、コールセンターとそこで働くオペレーターの存在です。弊社の場合、一般的なコールセンターと違い、電話で買取価格の交渉までやりますので、オペレーターの役割が非常に大きいのです。現在、コールセンターは大阪にあり、約130名のオペレーターがいます。「電話のやりとりだけで査定をして車を売ってもらっている」と説明すると驚かれることもありますが、成約率はかなり高く、1回の電話で売却を決めていただける方が80%以上もいらっしゃいます。これは弊社としても嬉しい誤算でした。オペレーターは女性が多いのですが、今後さらに人員を増やしていきたいと考えています。

AIにはできないオペレーターの「最後のひと押し」の価値
車の買取を取り巻く環境は、技術の進展とともに着実に変化しつつあります。5年後の車買取業界はどのようになっているのでしょうか。そしてその中で、ソコカラが今あらためて注力しようとしていることとは何なのか。森田氏は、デジタル化が進んだ先にこそ、人の力が必要になる瞬間があると語ります。
森田:これは私の個人的な想像ですが、近い将来、ユーザー様がスマホアプリで売りたい車の周囲をぐるっと撮影したら、外装の修理跡などがカメラで読み取れ、それで買取価格が即座にわかるといったものが現れる気がします。そのアプリを使えば電話でオペレーターと話すこともなく買取が完結するようになるのではないでしょうか。
そうした非対面で査定から買取まで完結させたいというニーズは当然あると思います。我々も近いうちにそのような買取フローの仕組みを整備することになるでしょう。
ただ、それでもやはり、ユーザーの皆さんがそれぞれ思い入れや愛着のある車を何らかの理由で手放すときには、数字だけでは割り切れないものがあるはずです。例えば、オペレーターが「車を大事にしていらっしゃったんですね」と共感を示したり、「大切に扱わせていただきます」と安心感をしっかりと伝えることも大切になる。
実際によくコールセンターで目にするのですが、オペレーターがユーザー様の背中を押す「最後のひと押し」というのがよくあります。売ろうかどうかと迷われている方が、そうしたやりとりのなかで「そう言ってもらえるなら」「そういうことなら任せます」と納得していただける瞬間というのがあって、それはやはり人と人が話さないと生まれないものです。そこの部分には最後までこだわっていきたいですね。AIが進化しても補えない部分だと思います。
もう一つは、5年後にはCtoCのプラットフォームがシェアを取っているのではないかと予想しています。具体的に弊社が関わっている分野で言うと、日本車を売りたいという国内のユーザー様と、買いたいという海外のユーザー様が直接取引できるようなプラットフォームです。現在のところ、中古車売買のCtoCはトラブルへの懸念からまだ大きく拡大はしていませんが、その間に専門家が入って査定をするようなサービスがあれば、一気に普及するかもしれません。弊社の「SOCOCARA AUTO MARKET」がその役割を担う可能性もあります。さまざまなハードルはあるでしょうが、こうしたプラットフォームを整備できれば、業界の中で強い存在になれるのではないかと考えています。
納得して手放すために、まず“価値を知る”という選択を
どれだけ高く売れたとしても、「本当にそれでよかったのか」と感じてしまうことがあります。
車を手放すという行為には、納得できる理由とプロセスが欠かせません。森田氏が最後に語ったのは、そんな“心の満足”についてでした。
森田:自社の利益とは矛盾してしまうのですが、最もお伝えしたいのは、「ご自身の車の価値を正しくわかった上で手放してください」ということです。もちろん、弊社一社のみで査定を受け、売っていただければそれが一番ありがたいのですが、本当はご自身でも調べていただいて、しっかりと納得できる価格で売るということを実践していただけたらなと常々思っています。
そのためには次の車を買われるところで下取り価格を聞くこともできますし、他の競合業者さんとの相見積もりも役立ちます。弊社のサイトにあるようなネット上の買取シミュレーターも活用できます。そうした少しの手間をかければ、ご自身の車の価値がかなり正しくわかっていただけるはずです。そのうえで我々が自信を持ってお伝えしている金額をご覧になり、十分に納得していただいて、その愛車を弊社に売っていただくというのが理想です。弊社としてはそういった心の満足感の高さを、これからも重視していきたいと考えています。
取材を終えて
世界とつながる自社オークションを武器に、ソコカラは廃車買取の常識を覆してきました。
その成長を支えているのは、森田氏が語った緻密な戦略と大胆なブランディング、そしてユーザーとの信頼関係を何よりも重視する姿勢です。
その姿勢は「愛そう、クルマの価値を」をタグラインとしている部分からも読み取れます。
AIがいかに進化しても、人が果たす「最後のひと押し」の価値は変わらない。そう信じる同社の挑戦は、今後も業界の未来を切り拓いていくはずです。
愛車の価値を正しく知ることは、賢く売却するための第一歩。
売る側として、その視点を持てるかどうかが、納得できる取引につながっていくのではないでしょうか。
※この記事は2025年7月時点の情報で制作しています