二極化が進んだ2025年。車買取業界の「光と影」を振り返る

二極化が進んだ2025年。車買取業界の「光と影」を振り返る

2025年、車買取業界では「買取詐欺」が大きな社会問題となった。一方で、信頼回復に向けた動きも加速している。この1年で何が起き、業界はどこへ向かうのか。モータージャーナリストの馬弓良輔氏、そして業界団体JPUC代表理事の井上氏への取材から振り返る。

目次

2025年、車買取業界で何が起きたのか

2025年、車買取業界を揺るがしたのは「カートップ」をはじめとする買取詐欺事件だった。カートップによる被害額は4億円以上、被害者は80人を超えるとされ、各地の警察が詐欺罪での被害届を受理する事態にまで発展している。

こうした報道を受け、消費者の意識にも変化が見られる。車買取ジャーナル編集部が大手買取サービス14社に実施した調査では、76.9%の事業者が「顧客から『安心・信頼』に関する質問が増えた」と回答。さらに、92.8%の回答において、顧客が金額だけでなく信頼性も重視して売却先を選んでいる実態が明らかになった。

調査内容の記事はこちら

一方で、大手事業者の多くはコンプライアンス強化や接客マナーの徹底に注力している。調査では71.4%の事業者が「強引な交渉の禁止、接客マナーの徹底」を2025年に強化したポイントとして挙げた。

真面目に事業を行っている多くの買取業者が、一部の悪質業者と同列に扱われてしまう──そんな「二極化」が浮き彫りになった1年だった。

モータージャーナリストの視点──なぜ詐欺は繰り返されるのか

2025年の車買取業界をどう見るか。長年、自動車業界を取材してきたモータージャーナリストの馬弓良輔氏に話を聞いた。

馬弓 良輔 (まゆみ・よしすけ)氏
モータージャーナリスト

1966年横浜市出身。「じゃらん」副編集長、「エイビーロード」編集長などを経て、2005年から2009年まで「カーセンサー」編集長。その後、楽天市場自動車ジャンル責任者などを務めたのち独立。現在も自動車や旅行メディアの編集者として活躍。

カートップ事件と「情報の非対称性」

馬弓氏は開口一番、「カートップの事件は論外」と切り捨てる。

「明らかに悪意を持ってやっているし、計画倒産に近い。あれを既存の仕組みで防ぐのは正直、厳しい。これまで買取業界の問題といえば『契約後の減額』と『しつこい電話』の2点に集約されていましたが、今回のような『そもそも支払う気がない』という犯罪的な手口を防ぐ方法は一つしかない。入金があるまで、車と書類を絶対に渡さない。これに尽きます」

さらに馬弓氏は、トラブルが繰り返される背景には「情報の非対称性」があると指摘する。

車の買い替えサイクルは7〜8年に一度。消費者側に知識がたまらず、業者側だけが知識を持っている。だから業界が自主的にルールを厳しくしないと、消費者が被害者になりやすい構造は変わらないんです。この業界で批判されることの多い『引き取った後に瑕疵(欠陥)が見つかった』という理由で後から減額するパターンがあります。意図的に瑕疵を隠す消費者がいることは否定しませんが、厳しい言い方をすれば『査定士が力不足なだけ』というのが僕の意見です。プロとしてやっているなら、後から減額はあってはならない。企業と個人なら、資金力のない弱い方──つまり個人の味方をするべきなんですよ」

業界の構造と消費者へのアドバイス

車買取ビジネスは「安く買って高く売る」ことで利益増となる仕組みだ。しかし馬弓氏によれば、実際の利幅は意外と薄いという。

「基本的にオートオークションという巨大な業者向けマーケットがあって、そこでの相場はほとんど誤差が出ない。さらにカーセンサーやグーネットで販売向けの相場も比較されやすい。中古車に掘り出し物はないんです。安い車には安いなりの理由が必ずあります。つまり構造的に中古車業界の利幅は薄い。だからこそ、買取で減額したり販売で諸費用を高くしたりして利益を取ろうとする悪い動きが出てきた

一方で、業界には新たな潮流も生まれている。

「今起きているのは、オークションを通さず、ユーザーから直接仕入れて自社で売るという動き。オークションで手数料を取られるのを避け、さらに広告媒体も飛ばしたいから、全国に大型店を作ってテレビCMを打ち、自社ブランドで集客する。

ビッグモーターの一件があったものの、ビジネスモデルの可能性としてはこの『自社仕入れ・自社販売』タイプが依然として有力でしょう。ただしオートオークションで行われる車両状態の評価、カーセンサーなどに備わる消費者保護の仕組みなど「第三者のチェック」を経ることのないこのモデルは、業者側の高いコンプライアンス意識と情報開示が求められると思います」

また一括査定などのプラットフォーマーにも動きがある。

「トラブルホットラインのような消費者対応窓口を設けているところに加えて、ヤフオクやメルカリではお馴染みですが、プラットフォーマーを経由してお金をやり取りする『エスクロー制度』などを取り入れる動きもあります。プラットフォーマー側も消費者保護の仕組みを整備しないと、業界全体が衰退するという危機感を持ち始めたのではないでしょうか」

最後に、消費者が安心して車を売るために気をつけるべきことを聞いた。

「まず、自分の車の販売相場を調べてください。カーセンサーなどで『車種・年式・走行距離』で検索して、売られている価格から15〜20%引いた金額が、買取の目標金額になります」

その上で、馬弓氏は以下の手順を推奨する。

  1. 次の車の購入先(ディーラーなど)で下取り額を聞く(これがスタート地点)
  2. ある程度の知名度がある一括査定などのプラットフォームを使う(大手なら普通の業者が参加しており消費者保護の仕組みもあることが多い)
  3. 相見積もりを取る
  4. 【最重要】契約しても、入金があるまでは絶対に車と書類を渡さない

「4番目が一番大事です。これさえ守れば、カートップのような被害は防げる。逆に言えば、入金前に車と書類を渡してしまったら、何が起きても打つ手がない」

JPUC代表理事に聞く──業界はどう変わるべきか

馬弓氏が指摘した「情報の非対称性」や「エスクロー制度」の必要性。業界側はどう受け止めているのか。

車買取業界の健全化を目指して活動する団体が、一般社団法人日本自動車購入協会(JPUC)だ。「一般消費者への安全・安心なサービスの提供」を理念に2014年に設立され、顧客への不当な勧誘防止や取引の公正化を推進してきた。代表理事の井上氏に、2025年の現状とこれからの課題について話を聞いた。

井上 貴之氏

井上 貴之(いのうえ・たかゆき)氏
一般社団法人日本自動車購入協会 代表理事

1972年生まれ。大学を卒業後、三和銀行(現:三菱UFJ銀行)に入行。2000年に(株)日本自動車流通研究所(現:株式会社 カーセブン デジフィールド)に入社し、2001年に専務取締役就任。2005年4月代表取締役社長就任。2007年有限責任中間法人日本自動車流通研究会(現:日本自動車流通研究所)代表理事、2011年一般社団法人日本自動車流通研究所監事。2014年には買取業界の健全化のために一般社団法人日本自動車購入協会を設立。

悪質な広告と「真面目な事業者」の苦悩

井上氏はまず、誇大広告や過剰な広告手法への懸念を語った。

「最近はAIの普及によって、各社とも自社ウェブサイト経由の集客状況が明らかに変わってきています。大手の車買取事業者は正当な広告をしているものの、一部の媒体や事業者では明らかに行き過ぎた、看過できない広告表現が目立っています。本来、真面目にやっている事業者が正当に集めるべきお客様を、こうした不適切な広告で横取りするようなやり方は許せません。現在、JPUCとして消費者庁に正式な指導を要請する準備を進めています」

では、真面目な事業者は今どうすべきなのか。井上氏の答えは明快だった。

「結局はベースとなる自社のブランド、自社の信用を高めていくしかありません。業界全体として消費者が安心してサービスを利用できる環境をつくり、真面目な事業者が正当に評価される業界を目指します。そして、悪質事業者が入り込める余地がないようにしていきます。幸いなことに、事業者の多くはこの考え方に賛同してくれています。みんなでやっていくべきですね」

「究極の目標は団体の早期解散」

また井上氏は、買取詐欺への対策についても言及した。

「買取詐欺で、支払わずに何十台、何百台もの車を契約して持ち逃げされる。そうしたことが業界として絶対できない仕組みにしないと意味がありません。時間はかかりますが、必ずやっていきます」と、エスクロー制度や支払い保証などの導入に意欲を見せる。さらに、業界全体の健全化のために、景品表示法に基づく「公正競争規約」の策定も進めていく考えだ。

最後に井上氏は「究極の目標は『団体の早期解散』です。業界が健全になれば、監視団体は必要なくなる。そう思いながら進めていく必要があります」と語る。

JPUCが役目を終える日、つまり業界が本当に健全化する日を目指し、井上氏は本気で取り組んでいる。

2026年、業界はどこへ向かうのか

2025年は、車買取業界にとって「信頼」が問われた転換点の年だった。

悪質業者による詐欺事件は、業界全体のイメージを大きく傷つけた。しかし同時に、消費者の意識は確実に変わり、事業者側も信頼回復に向けた取り組みを加速させている。エスクロー制度の導入検討や公正競争規約の策定など、構造的な問題を解決するための動きも始まった。

消費者としては、「金額」だけでなく「信頼できる業者かどうか」を見極める意識がこれまで以上に重要になる。複数社への査定依頼、口コミや評判の確認、そしてエスクローサービスを導入している業者の選択。こうした対策が、安心して車を売却するための第一歩となるだろう。

車買取ジャーナルでは、引き続き業界の実態を追い、読者の皆さまが安心して車を売却できる環境づくりに寄与してまいります。

※この記事は2025年12月時点の情報で制作しています

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