「5つの安心宣言」がもたらした革新とは。カーセブン経営者に聞く

カーセブン特集

中古車流通業界には長年、ネガティブなイメージがつきまとっていました。修理費の水増しや車両損傷の隠蔽、走行距離の改ざんなど、多くの問題点が指摘されており、消費者の信頼を損なう原因になっていたのです。

そうした業界の健全化に挑んできたのが、カーセブンデジフィールドの井上貴之社長です。

井上社長が描く中古車流通の理想像とは、どのようなものなのでしょうか。そして、カーセブンが掲げる「5つの安心宣言」には、どんな想いが込められているのでしょうか。

これまでの経営者としての歩みと、カーセブンデジフィールドの取り組みについて、井上社長に聞きました。

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目次

自動車買取ビジネスの課題を解消する「5つの安心宣言」

これまで、井上社長のリーダーシップのもと、次々に革新的な取り組みを打ち出してきたカーセブンデジフィールド。

特に話題になったのは2013年に発表した「5つの安心宣言」。「ご契約金の半額を当日中に前払いします」「いかなる場合でもご契約後の減額は一切しません」「買取車両は当社名義に変更手続きいたします」「キャンセルは7日間、電話1本で可能です」「ご契約後でもキャンセル料は一切かかりません」という5つの「約束」は、当時の中古車流通業界では考えられないほどユーザーに寄り添った宣言として注目を集めました。

井上:カーセブンチェーンで「安心宣言」を導入して、もう10年以上になります。最初に提案したときは、反対の声しか上がりませんでした。役員会でも「お前は頭がおかしいんじゃないか」と言われた程です。

たしかに気持ちはわかります。たとえば「ご契約金の半額を当日中に前払いします」ということは、契約金額が100万円なら50万円を先払いするわけです。普通の人が聞いたら、「お客様が持ち逃げしたらどうするのか」と思うでしょう。

カーセブン井上社長
井上貴之(いのうえ・たかゆき)氏
株式会社カーセブンデジフィールド 代表取締役 兼 社長執行役員

1972年生まれ。明治大学を卒業後、1995年4月三和銀行(現:三菱UFJ銀行)に入行。2000年に(株)日本自動車流通研究所(現:株式会社 カーセブン デジフィールド)に入社し、2001年に専務取締役就任。代表取締役専務を経て、2005年4月代表取締役社長就任。2007年有限責任中間法人日本自動車流通研究会(現:日本自動車流通研究所)代表理事、2011年一般社団法人日本自動車流通研究所監事。2014年には買取業界の健全化のために一般社団法人日本自動車購入協会を設立。2022年4月「(株)カーセブンデジフィールド」に商号を変更。

実はここに、自動車買取というビジネスモデルならではのジレンマが潜んでいます。お客様は1万円でも高く売りたい。一方で、買取業者は1万円でも安く仕入れたい。

つまり、車の買い取りは究極に利害が相反するビジネスなんです。会社の利益を追うと、お客様の喜びを削いでしまう。セールスパーソンにとっては板挟みなんです。

では、セールスパーソンが少しでも商売しやすく、なおかつお客様にもご満足いただくにはどうすればいいのか。その考え方に基づいて生まれたのが、この「5つの安心宣言」なのです。

当社は「5つの安心宣言」を評価してくださって、そこに価値を感じていただけるお客様だけを「顧客」と呼ぶことにしています。

顧客を絞ることで接客件数が減っても構いません。接客件数が減れば1件あたりのお客様との商談時間を費やすことが可能になり、お客様の満足度も上がります。そうすれば、ご紹介やリピートが増えて、しっかりと利益も出せるのです。

言うのは簡単ですが、安心宣言を社内や各店舗に浸透させるのに2年かかりました。

社員や加盟店に浸透させながら、現場の声やデータを集め、実証実験を通じて進化も続けてきました。たとえば、当日中に前払いする金額も、最初は10%から始めて、定着したら30%、50%と上げていったのです。これも現場の声が影響しています。

もちろん、持ち逃げリスクはゼロではありません。しかし、契約時に本人確認や車検証名義の確認を行い、売買契約を正式に締結するわけで、その状態で持ち逃げする人はほとんどいません。ほぼ起きないリスクを気にして、前払いをしないというのでは、お客様からすればアンフェアに感じるでしょう。むしろ、そうしたネガティブな感情をお客様に抱かせてしまうことのほうがリスクだと思っています。

中古車流通業界のさらなる健全化を目指して

車両買取の透明化と健全化に注力してきた井上社長。そうまでして取り組む背景には、中古車流通業界に長く蔓延していた不健全さがあるといいます。

井上:現在では、競合他社もうちを真似て同じような安心宣言をするようになっていますが、それでいいと思っています。2023年、中古車流通業界の問題が起きてから、いろいろな会社がコンプライアンスを意識するようになりました。

そもそも、中古車流通業界はこれまでけっして健全とは言えない業界でした。この業界で離職した人は、おそらく多くが違う業界に行ってしまって戻ってこないと思います。労務環境だってよいといえる会社が多くなかったのですから。

この数年で、各社が競争するようにコンプライアンスを高め、接客や買取時のサービスメニューを改善して、業界全体で健全化が進んでるようにも見えます。しかし、まだまだ変えられます。もっとよくなれます

自分が幸せになりたいなら、自分が所属しているチームを幸せにしなければならないし、チームが幸せになるためには、会社が幸せにならないといけません。そして、会社を幸せにするには、業界全体を良くしていく必要があります。だからこそ、私は当社だけではなく、同じ業界で働く皆が幸せになるように中古車流通業界全体を健全にしていきたいのです。

そのために2014年に設立したのが、一般社団法人日本自動車購入協会(JPUC)です。この協会の取り組みで、かなり多くの改善が行われてきました。

次に改善したいと考えているのは、買取の広告です。買取詐欺のような行為を行う業者も悪いのですが、そういった会社の広告を掲載する媒体にも問題があります。景品表示法の運用基準が変わって、買取広告も規制の対象になり、虚偽広告は禁止されました。さらに、私のほうで消費者庁に働きかけ、車の買取については公正競争規約をJPUCで作ることになりました。

今後はJPUCで作成した公正競争規約を締結し、事実上のルールとして位置づけていくつもりです。また、リサイクル業界とも連携し、中古車流通業界の周辺も含めて、業界のさらなる健全化に努めていきます。

倒産寸前の危機を救った自身の意識改革とカーセブンのフィロソフィー

1999年7月に設立し、今では最大級のフランチャイズブランドとまで拡大した「カーセブン」。
一見、順調に見えますが、創業初期には業績不振で倒産寸前まで追い込まれたことがあったと、井上社長は振り返ります。

カーセブン井上社長2

井上:27歳で前職の銀行を辞めてこの業界に入り、翌年には取締役に就任しました。銀行時代には実績も上げていたし、自分が経営者になればもっと儲かるという自信を持っていたのです。

ところが、その3年後には、会社は事実上の倒産状態にまで追い込まれることになりました。売上もろくに上がらないし、経費はかかるし、社員も辞めていってしまうしで、すごく大変な状況でした。

理由は簡単です。経営者である私がダメだったのです

当時の私は社員のことを見下していたし、傲慢でした。あのままなら会社は存続していなかったでしょう。

そこから意識を変えて、立て直しを図りました。まず、私自身が「自分は優秀ではない」と認めるところから始めました。その前提に立つことで、物事の考え方も変わってきたんです。トップがやるべき仕事は、会社の進む方向性を示すこと。それをチームのメンバーに明示して、納得してもらい、あとはメンバーを信じて任せることが重要なのです。

それから会社はV字回復しました。リーマン・ショック時に一度だけ意図的に赤字を出しましたが、それを除けば現在に至るまで、一度も赤字は出していません。仮に3年くらい売上がなくても、社員の給料は払い続けられる状態にしています。

長く続いた不景気やコロナ禍など、予想のつかない出来事も起こりましたが、そうした事態を乗り越えてこられたのは、社員が能動的に考え、自律的に行動するカルチャーがカーセブンデジフィールドの社内に育っていたからです。

当社が企業として存在する目的、果たそうとしている使命である「ミッション」のほか、当社ではミッションに基づいて経営を進める上での基本方針である「経営理念」とミッションと経営理念から導かれる具体的な行動指針を「カーセブンフィロソフィー」として定めています。

私は普段、社員のマネジメントには関与せず、評価に対してもほとんど口を出すことはありません。逆に徹底的にこだわっているのが、会社としての方針を具体的かつ丁寧に説明することです。会社としての大きな方針や、フィロソフィーが明確になっていれば、社長の指示を仰がずとも社員は迷うことなく行動できるのです。

フィロソフィーは加盟店舗でも「カーセブンチェーンフィロソフィー」として作成しており、1~9項目目は全店舗共通のものを本部側で設定、10項目目については店舗ごとで考案してもらっています。

自分が働いている会社の方針に納得し、やっている仕事に喜びを感じられなければ、お客様に良いサービスを提供できるわけがありません。だからこそ、当社のフランチャイズ加盟店のオーナーにも、カーセブンチェーンフィロソフィーの徹底を求めています。

実際、加盟店のオーナーはとても真摯にフィロソフィーに向き合ってくれています。10項目目のフィロソフィーを考えるオーナー会議では、どのオーナーも本当に真摯に取り組んでくれたし、チェーンフィロソフィーに基づいて行ったグループディスカッションの熱気もすごかった。本当にありがたいと思います。

組織文化を作るのが簡単ではないと感じている経営者も多いでしょう。でも、誰しもが胸を張って伝えられないような仕事をしたいとは思っていないのです。あの人は立派だと思われたいし、自分の生き方を尊敬されたいと思っているはずです。それなら、経営者側からフィロソフィーやカルチャーの土台を提供すればいいんです。きっと皆、賛同してくれるでしょう。

取材を終えて

車を売るとき、「少しでも高く売れたら」と願うのは、ごく自然なことです。
けれど、そこに不安や駆け引きが入り込んでしまうと、せっかくの満足感も薄れてしまいます。
井上社長は、そんなユーザー心理とまっすぐに向き合い、交渉のストレスを取り除く仕組みを時間をかけて丁寧に築いてきました。

「お客様に正直でいたい」「現場が幸せであることが大事」――。
そうしたまっすぐな思いが「5つの安心宣言」やフィロソフィーとして形になり、カーセブンの文化となって根を張っています。

未来の車買取が、もっとあたたかく、フェアな体験になる。そんな希望を感じられる取材でした。

※この記事は2025年8月時点の情報で制作しています

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